アーティスト、リサーチャーとして多方面で活動されている、アルスエレクトロニカ・フューチャーラボの小川秀明さんとお会いすることができました。
多忙なフェスティバル期間中にも関わらず、貴重な時間を割いて下さった小川さんに感謝を申し上げつつ、ここではその一部をご紹介したいと思います。
フューチャーラボが取り組む5つの技術トピック フューチャーラボの各フロア見学後、未成年世代の企画やカフェで賑わうクオーターエリアのテントへ移動しました。 − 小川さんご自身は、今回のフェスティバルにどのように関わっていますか? 「Robotinity」というロボットの展覧会のキュレーションや、アルスエレクトロニカセンターエントランスに常設されている影をシールにするインスタレーション「Shadowgram」の制作など、いくつかに関わっています。基本的に僕はここで、アーティストとして作品やコンセプトを作ったり、研究をしたり、展覧会をキュレーションしています。あとは、なんでもやりますね、プログラミングもやりますよ、でも最近の仕事としては、マネージメント、キュレーション、プランニングなどコンセプターとしての仕事が多いかな。 − フューチャーラボに在籍しているリサーチャー、ディレクターの人たちは、アーティストなど、専門性を持った人が多いのでしょうか? みんなそう(アーティストと)思ってやっていると思いますよ。基本的にはそういうキャリアがあって、お金を取ってこれて、結果も出せるという人がやっていますね。そこはどうしても必要です。完全にお金が提供されていて、好きにやっていいということではないですから。 − 小川さんご自身は、どのようにフューチャーラボに入られたのですか? 僕はアーティストとして、ゲルフリート・シュトッカー(※→脚注ページ内右下) (アルスエレクトロニカ・アーティスティックディレクター)と個人的なつながりがあったんです。たまたま、僕自身も2005-6年あたりに環境を変えたいなと思っていて、その時に全然どういう状況か解らないままこちらへ来ました。最初はアーティストインレジデンス(※→脚注ページ内右下) で、アルスエレクトロニカセンターのための作品を作ったりしていたんです。フューチャーラボの過去のアーティストインレジデンスのアーティストだと、ゴラン・レヴィンやザッカリー・リーバーマンというOpenFrameworksを作った人達が有名です。彼らは僕の少し前にいました。たまたまあったセンター新築の話は僕にとってはチャンスで、ここで結果を出すことでアーティストインレジデンスのアーティストから正規雇用になれたのだと思います。 −お金を出してくれる企業や機関などはフューチャーラボにどういった期待をしているのでしょう?研究機関として大学とどのように違いますか? 我々と共同研究することで 、実験的な事例かもしれないけど、実社会の中で活用できるレベルで納品、検証できる、というのが大きいと思います。大学の実装レベルとクオリティが違うと思います。 メディア表現に関しては、近年、大学の研究室で出てくるコンテンツよりも企業やプロダクションの方がスピードが早かったり、お金がついてくるのでクオリティも高かったりします。例えば2000年前後は、それこそ「MITメディアラボ」とかそういったところが、タンジブルユーザインターフェイスに代表される新しい発想やプロトタイプを出していたんですけど、今は大学以外のところで面白い物が出てきたりすることも増えています。メディアテクノロジに関連する研究の状況は今大きく変わりつつあると感じます。 − 今年のフェスティバルは、セルンもそうですが「基礎研究」にフォーカスをあてていると思うんですが、その領域は外側に見えていて、それらの機関と仲良くしていくといった感じですか? テクノロジって基礎研究から仕上がっていると思うんですね。サイエンスと比較したときに技法や方法として確立されています。サイエンスを探求する過程でそのテクノロジに繋がるいろんな面白い発見が起こっているというのは見逃せない事です。例えば、セルンの話もそうですけど、純粋な物理学を研究するプロセスの中で「ワールドワイドウェブ」が考案されたのが良い事例です。なので、アートとテクノロジと社会と言っているところで、サイエンスのフィロソフィーやアートに近い部分、そういったところは常に見ていく必要はあるなと思っています。なぜかと言うと、一番面白いテクノロジの芽がそこにころがっている可能性があるからです。テクノロジを待つだけでなくて、自ら次のテクノロジの芽を探しておく準備として、サイエンスを見ておくというのは、重要なんじゃないかなと思います。 − 先ほど伺ったようなフューチャーラボの5つの技術トピックやコンセプトはどうやって決まっていくのでしょうか。キーパーソンがいますか? フューチャーラボのコンセプトについては、誰がキーパーソンというよりは、その人(リサーチャー)自身がキーパーソンといった感じで、それなりの審美眼がないとダメだって言うのは認識しています。人材をセレクションする段階で、その人自身が「カタリスト=触媒」になり得る基本的な知識とスキルを持っているか、あとは「触媒感=コミュニケーション能力」で決めている感じですね。この人と話すとなんかポッときそうだなとかってあるじゃないですか。みなさんのチームとかでも波長があると思うんです。この人合ってないなとか、めちゃめちゃ合っちゃう時ってありますよね。結局、個々がリーダーシップを発揮するという認識があった上で、そこでの発見のスパイラルをどうやって次の発見へと繋げることができるかといった視点が、重要なことなんじゃないかなと思っています。今あること、できることを探すのは簡単なんですけど、次を考える時にはやっぱりちょっとした「コリジョン=衝突」がないとなかなか見つからなかったりするので、クリエイティブなコリジョンをどうやって起こしていくかというのは会社でも重要ですね。
たぶん分野が違うというのも非常に重要で、さっきの5つのトピックに関してもそれぞれの専門性を持った人がやっていながら、トピックを横断したり、融合したり発展させています。例えば、「Robotinity」というトピックからどう「Creative Catalyst」になり得るものを作るか。ひとつ事例をあげると「mybot」という、iPod nanoに自分のアニメーションを出力できる顔アニメソフトを作りました。iPod nanoって顔みたいな感じの四角ですよね。それ(ディスプレイに顔の映ったiPod nano)を(コップに)クリップするとこれが急にロボットみたいになるじゃないですか。そうすると、僕はこの顔と身体を持っているように見えて、(クリップする前後で)急にギャップが見えるじゃないですか。「Robotinity」っていうのは「Humanity」と対になる単語です。「人間らしさって何?」というのが「Humanity」の探求だとして、結局「ロボットらしさってなんだろう」って探求していくと絶対「Humanity」を考える必要がでてきます。 そういうことを考えるための「触媒」を作らないといけないということを発見した事例です。 |
小川秀明 (おがわ・ひであき) オーストリア・リンツ在住のアーティスト 聞き手 : 東京在住のデザイナー、ディレクター |
[脚注] ゲルフリート・シュトッカー(Gerfried Stocker): オーストリア・グラーツ出身のメディアアーティスト。1995年からアルスエレクトロニカセンターのアーティスティックディレクターを務めている。 アーティストインレジデンス: フューチャーラボは常勤スタッフのほか、外部のアーティストやリサーチャーを招聘して研究開発活動を行っている。現在も世界各国から多くの才能が参加している。 |